From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

No.4 東の果てより

 子供の頃、「特命リサーチ200X」というテレビ番組が好きだった。超常現象や怪事件の調査を行い隠されていた謎や未知の世界に迫る、という内容だ。ドラマのように構成された様々な映像に魅了され、日曜8時に僕はテレビの前で毎回ワクワクしながら見ていた。UMAノストラダムスの予言、バミューダトライアングルなど、今考えてみると怪しい情報ばかりであったが、自分の住んでいる世界とかけ離れている世界を知ることはとても面白かった。そしてこの調査を行っていた架空の民間機関の名称が「ファー・イースト・リサーチ社」だった。その時は「何だかカッコイイ響きの名前だな」としか思わなかったが、これは即ち名前の通り、極東での物語なのだ。ウラジオストクが位置するシベリア東部と東アジアは極東と呼称される。つまりは西洋社会を中心とした場合の呼び名である。球体である地球の表面に中心などあるわけないのだが、個人的にこの名前は気に入っている。「東の果て」という意味も何だかカッコいいから。

f:id:socialanimal:20170719055000j:plain

  ウラジオストク港での長い入国手続きを済ませ、ようやく街中に出ることができた。街は思っていた以上に華やかな雰囲気に満ちており、自然と心が弾んでくる。小さな広場にあるレーニン像の前を通り、二十分ほど歩いてようやくホステルに到着した。しかし、建物の入口にある門は閉まっている。どうやらパスコードを入力すると開くようだが、予約時にそんなものは聞いていない。どうしようかとしばし佇んでいると、バックパックを背負った女の子がやってきた。彼女も番号は知らないようだったが、そのすぐ後に宿の人が来て彼女とロシアで会話した後、門を開けてくれた。

 

 彼女はアルゼンチンからの留学生で、現在はモスクワにある大学で文学を勉強しているという。今は夏季休暇中で、ロシア東部を旅している。世界各国の文学作品を読んでいるらしく、日本の古典なら「PILLOW BOOK」を読んだことがあるわ、と言った。そんな名前の本は聞いたことがないので知らないと返すと、「何で日本人なのに知らないの!と。暫く考えてPILLOW BOOK が枕草子であることが分かった。英訳されたタイトルから日本名を推測するのは中々難しい。アルゼンチンの文学作品など全く知らないが、今チェゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」を読んでいるよと話すと、嬉しそうに笑ってくれた。

 

 宿でしばし休憩したのち、街に出てみることにした。ウラジオストクは海に面した港町であり、ビーチもある。そこにいるロシア人たちは短い夏を満喫しようと、体全体で陽の光を浴びていた。

f:id:socialanimal:20170719054947j:plain

f:id:socialanimal:20170719054956j:plain

 夕食をとって宿に帰ると、ライダースーツを身に纏った二人組がいた。どうやら二人とも韓国人らしい。見た目が二十代と四十代っぽかったので、親子ですか、と聞いてみると笑いながら、違うよ、と答えてくれた。二人は僕と同じ船でここまで来て、これから西を目指して旅をするという。若い学生の方はユーラシア大陸の西端ロカ岬まで。もう一人の方は二週間の休みなのでロシアの途中まで。彼はサムスンでアプリケーションアーキテクトとして働いている教えてくれた。僕の前職と近い職業だったので、仕事の話をしてみると、仕事に対する共通の不満や悩みがあり、ビールを交えながら盛り上がった。

f:id:socialanimal:20170719055012j:plain

 翌朝バイク旅の二人を見送り、10時前に僕も宿を出た。駅に向かう前にスーパーによって、食料の買い出しへ。シベリア鉄道の車内でも食料は買えるが割高なので、乗客たちは皆事前に必要なものを購入するのだ。見慣れぬ商品を観察しながら、カップラーメンやカップマッシュポテト、パンや紅茶などを買い込んだ。車内では常時お湯が使えるので、いつでも温かいものが食べられる。荷物が増えてしまったが、これからの旅のことを考えていると、足取りは不思議と重くならなかった。

 

 昨日話した人たちのように、これからも色々な出会いや発見があるだろう。あの日見たテレビ番組のようなドラマチックな展開や衝撃の結末はあまり期待できないが、楽しみにして待つことにしよう。