From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

No.5 シベリア鉄道で西へ

 ウラジオストクからロシア中央部の大都市イルクーツクへは、シベリア鉄道の三等車に乗って行くことにした。豪華な装飾に彩られている一等車両や4人用のコンパートメントが並んでいる二等車両とは異なり、仕切りのない三等車両ではロシア人の普段の生活を垣間見ることができる。

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 列車は定刻の午前11時2分、ウラジオストク駅を出発した。あっという間に夏が過ぎ去って行くロシアではあるが、8月上旬はまだ暑さが残っている。車内の冷房はわずかに効いてはいるが、夏らしい陽光が差し込んでくるとジッとしていても汗が滲み出てくる。僕は車窓にゆっくりと流れゆく景色を眺めながら、このユーラシアを横断する旅に想いを馳せていた。一方でロシアの男たちは上半身裸で数独クロスワードパズルを解きながら、女たちは果物を摘み世間話をしながら、ゆっくりと西進する列車での時を過ごしていた。旅行者にとってはアジアとヨーロッパをつなぐロマンある乗り物であっても、現地の人からすれば町と町をつなぐ一つの交通手段にすぎないのだ。

 通路を挟んだ隣の席では、五歳くらいの女の子が美味しそうにお菓子を食べている。一通り食べ終えた後、自分と違う顔の形をしているのが珍しかったのか、外国人である僕に興味を示してくれたようで、こちらをじーっと見つめてきた。暇な者同士なのだ。彼女と遊んであげよう、いや、遊んでもらおうと思ったが、何に興味があるのか分からなかったので、彼女のマネをしてみることにした。彼女が手を振ればこちらも振り返す、ニカッと笑えばこちらも口角をあげてみる。極めて単純な遊びだが、楽しんでくれているようで僕も嬉しくなった。見知らぬ人とのコミュニケーションは旅の醍醐味の一つだ。

 

 こんな風にして彼女ははじめ僕と遊んでくれていたが、そのうちノートにお絵描きをしはじめた。ただ30分もするとそれにも飽きてしまったようで、シートに寝転んでしまった。日向ぼっこをするには幾分強い陽射しではあったが、その内にうとうとと眠ってしまった。列車は決してスピードを上げずに依然としてゆっくりと西へ向かう。目的地まではまだまだ遠いようだ。

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