From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

No.6 シベリアの大地と偉大なる母

 ウラジオストクからハバロフスクまでは、夏の陽光に照らされた日本海の青を眺めることもできたが、それ以降はずっとシベリアの大地が車窓に映し出されていた。町と町の間には白樺の森と草原がひたすらに続く。時折現れる数件の集落を見るたびに、「彼らはここでどうやって生きているのだろうか?」と考えてしまった。僕の想像の外に暮らす彼らとはこの先一度も交わらないと思うが、そこに無理矢理にでも接点を生み出すことが、見知らぬ土地を旅するということなのかもしれない。「これからこの国を旅する」という話をすると、「神の思し召しがありますように」とタブレットの翻訳機能を通してメッセージをくれたロシア人のおばさん。僕と同じようにシベリア鉄道で旅をする韓国、フランス、ウズベキスタンの旅行者たち。再会することはもうないだろうが、旅に出たからこそ彼らに出会えたのだ。

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  狭い車内で三日間を過ごし、四日目の夜明けごろに眼が覚めると、列車はイルクーツクの近郊を走っていた。進行方向の右手には、並行して走るローカル線の乗客たちが見える。厚手のコートやダウンジャケットを着ており、今が八月だということを全く感じさせてくれない。

 朝靄に包まれたイルクーツク駅に到着した。列車から降りると、夏とは思えない冷たい空気が頰を突き刺し、「やはりここはロシアなんだ!北の大国ロシアなんだ!」と僕は一人興奮していた。街に移動しようと駅の出口を探すが、それらしきものが見当たらない。他の乗客たちも僕と同じように迷っている。一緒に降りてきたロシア人の青年に英語で尋ねてみるが、彼も知らないと言う。大きなスーツケースを引っ張っているところを見ると、久々の里帰りなのかもしれない。

 

 みんなで辺りをぞろぞろと歩きまわったのち、ようやく出口にたどり着けたのだが、出口を示した看板などはついぞ見つけることができなかった。「案内なんかしなくても分かるでしょ。」というのがロシア流なのだろうか。一緒に出口を探していた青年と目が合うと、彼は疲れた顔をしてこう呟いた。「This is mother Russia!」故郷を長らく離れてようやく帰ってきた息子に、この偉大なる母は少々手厳しい。

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