From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

No.7 銃・病原菌・鉄、あとショートケーキ。

 シベリア鉄道でウラジオストクからモスクワまでいく場合、途中下車しなくても七日間もかかってしまう。さすがに乗りっぱなしはきついのでイルクーツクとオムスクで降車したわけだが、それでも合計七日間列車に乗っていることには変わりない。暇な時間を有効活用するため、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』を読み進めることにした。文化人類学のベストセラーだ。内容を簡単に要約すれば、「人類は住む場所の風土に大きな影響を受けながら生活してきた。文化の質や文明の進歩具合に大きな違いはあれど、そこに人種的な優劣はない」というものだ。ちなみにこの単語を並べただけのシンプルなタイトルは、人類に大きな影響を与えた三つの要素のことである。この本は旅先で読むものとしてうってつけだと思う。

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 陸路旅をすると必ずどこかの道を通り、どこかの町に立ち寄らなければ先には進めないので、風土や文化、文明の流れを感じることができる。その時に考えるヒントをくれるのだ。例えばモンゴルの北に位置しているイルクーツクにはアジア系の顔をした人が多い。また市場でも乳製品は所狭しと並べられており、モンゴル遊牧民からの影響を感じ取ることができる。また、イルクーツクを過ぎたあたりから、町と町との間隔が少しずつ縮まってきていることに気づいた。町の規模も大きくなってきている。イルクーツク以東に位置しロシアの大半を占める過酷なシベリアの大地が、欲深い人間たちの進出を阻んできたのだろう。

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 世界地図をイメージすることは簡単だが、そこには国境線が引いてあるだけで何の色味も複雑さもない。頭の中の知識とこうした経験を混ぜ合わせ、絵筆で彩りを加えていくことが陸路旅の面白さなのかもしれない。たとえそれが主観に基づいた奇妙な色であっても、だ。しかしこれがこの先何の役に立つのか、お金や時間を使った分だけの価値があるのか、僕には分からない。こんなことをしている間にも同世代は家庭を築いたり仕事で成果を上げていたりするのだ。きっと実利的なメリットにすることは難しいだろう。しかし人生を面白くしてくれる何かにはなるはずだ。人はパンのみにて生きるにあらず。たまに食べたくなるショートケーキになってくれればそれでいいのだ。

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 オムスクを出発して二日後の朝、列車はいつもの通りゆっくりと走っていた。社内ではよくGOING STEADYの『銀河鉄道の夜』や大滝詠一の『さらばシベリア鉄道』を聞いていたが、七日目になるとさすがに飽きてきた。それだけ長い間この列車に乗ってきたのだ。終着駅が近づいてきたので、乗客たちは降車の準備を始め出す。僕も寝台から枕カバーとシーツを外し、リネンが乱雑に重ねられた場所に放り投げた。そのまま近くの席に腰を下ろし、無機質な住宅と古びた工場が立ち並ぶ風景をぼんやりと眺める。スマートフォンの地図アプリで現在位置を確認すると、青い点が少しずつ密集地帯に近づいていっている。それに比例して期待がどんどん高まり眠気が覚めていく。さあ、モスクワは目の前だ!

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