「英語話せないけど海外旅行しても大丈夫?」に対する回答をマジメに考えてみる。
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しばらく更新していませんでしたが、生活も落ち着いてきたので更新を再開しようと思います。
旅行記や旅、英語、本に関する話を書いて行こうと思います。
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僕が大学生だった時に、世界一周をした先輩にこんな質問をしたことがある。
「英語話せないんですけど海外旅行しても大丈夫ですか?」
当時の僕は英語をほとんど勉強していなかったが、海外に興味を持ち始めたので聞いてみたのだ。すると先輩は、
「まあ多分大丈夫だよ」
と曖昧な答えを返してくれた。
それから何年か経ち海外旅行の経験が増えてくると、今度は同じ質問をされるようになるので、僕も同じように返答していた。
「まあ多分大丈夫だよ」
相手も深く聞いてこないし僕も根拠を語るつもりがなかったので、その質問はそれ以上発展せず、すぐに次の話題へと移ることが常だった。
今考えてみれば、これは極めて曖昧な質問である。そもそも海外を旅する上で必要な言語は英語だけではないし、何に対して「大丈夫?」と心配しているのかも分からない。ただ間を持たせるためにした特に意味のない質問ではないか、とも思う。
そんなものに真面目に答える必要はないのかもしれない。しかし、旅行好きの多くがなんとなく疑問に思い、なんとなく返答している質問である。この2年間で世界の国々を回り英語も勉強してきたので、この質問に真面目に回答してみようと思う。
とは言っても、この質問だけではどのような回答が適切なのか検討するのは不可能だ。なので、以下の3項目を前提条件として考えることにする。
①対象は誰か
全ての人がこの質問を行う対象だと考えると、英語の勉強歴や英語に対する慣れの幅が広過ぎるので、ここでは以下の条件に合致している人に限定する。
・生まれてから20歳になるまでの大部分を、日本で過ごしている日本人である。
・日本の義務教育を経験している。
・年齢は18歳~60歳である。
②どこに行くか
今回の話はあくまで「英語の話」なので、英語の通用率が低い国に行く事は考えない。中央アジアや南米など、英語を話せたとしても役に立ちにくい国は対象外とする。対象とするのは以下の2つ。
・英語ネイティブ国(アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなど)
・非英語ネイティブ国だが、英語通用度が高い国(西・北ヨーロッパ、東南アジアなど)
③どのように旅行するのか
旅行の種類は一般的に「(団体)ツアー旅行」と「個人旅行」の2つに分けられる。前者の場合は添乗員や現地でのツアーガイドなどが帯同しており、英語を話せなくても問題がないことは明白なので、対象は後者のみとする。
以上の前提条件をもとに、質問に対する回答を考える。なお、質問文を以下のA・B2つのパートに分けて考察する。
A「英語話せないけど」
「英語話せないです!」と言う日本人は多いが、果たしてこれは全く話せないことを意味しているのだろうが? もしこれが「グルジア語話せないです!」だったら事情は全く異なる。「こんにちは」を意味する「გამარჯობა」を読める日本人はほとんどいないし、そもそも何て発音すれば良いのか一文字さえも分からない。おそらく知ってるグルジア語の単語なんて一つもないだろう。
それに対して英語は事情が全く異なる。街を歩く、友人や家族と話す、テレビを見る、雑誌を読む。誰もが行う普段の行動であるが、おそらくそのほとんどに何らかの英単語が含まれている。Hello、Car、Go、Hotel、Book。どれも日本中に溢れている英単語であり、日本人はそれらに自然に慣れ親しんでいる。義務教育意外で英語を勉強していなくてもこれらの英単語を読める・話せる・書ける人は多いはずだ。
もちろん、これらの単語を複数組み合わせて文章を作れるかどうかは、単語を知っていることとは別問題である。しかし、文章を作る必要があるのだろうか?ホテルに行ったら”Single, 2 nights”、レストランでは”This and this please”、駅に行きたいときは”Station, where?”でいいのだ。”Could you tell me where the station is?”というように正しい順番で英単語を並べなくてもいいのだ。もちろん文章を作れた方が表現の幅は無限に広がるし、深い話をすることもできるが、「海外旅行をする」と言うことに限れば必要ない。
また、よく「日本人のカタカナ発音英語は、外国人には通じない」というが、果たしてどこまで通じないのだろうか。私の経験からすれば、先述した日常生活で触れられる単語に関してはよほど変な発音をしない限り、通じる事が多いように思う。もし発音できなくても、ノートに書く、指さし会話帳を使う、Google翻訳を使うなど、最低限のコミュニケーションを取るためのいくらでも方法はある。
以上より、前提条件に合致する人であれば、海外旅行に最低限必要な英語を使うことができる、と結論づける。
B「海外旅行をしても大丈夫?」
海外旅行をする多くの人が恐れているのが、何らかのトラブルに巻き込まれることである。とは言っても、トラブルはその種類により旅行者に与える影響の大きさが異なる。すぐに癒える傷を負うだけのこともあれば、二度と立ち上がれない状況に陥りこともある。そこで今回は、「致命的な状況・状態」を避けるために「大丈夫?」と心配していると考え、海外旅行で遭遇し得る各トラブルの致命的な状況・状態とその対処法を考えていく。
・出入国時
出入国時の致命的な状況は、「出入国できないこと」である。外国に入らなければ海外旅行はできないし、外国から出られなければ日常生活に戻ることはできない。入国審査官に長時間詰問された結果、入国できなかったなんて人もいるだろう。しかし今回想定している国は日本人旅行者が多い国であり、出入国時に尋問されることはほとんどない。例外として、イギリスでは入国時には多くの人が入国審査官から質問をされるが、それとて基本的な質問ばかりなので、事前に何と答えるのか準備しておけば問題ない。
以上より、出入国時に関しては致命的な状況に陥る可能性はとても低いと結論づける。
・お金
海外旅行をする上で、パスポートと同じくらい大事なのがお金であり、海外ではお金に関するトラブルはとても多い。レストランやタクシーで正規以上の金額を要求されたり、騙し取られるようなことはざらにある。人混みの中を歩いていると、いつの間にかバッグをカッターで切られ財布を抜き取られることもある。しかしこれらは致命的なことではない。財布が空になるほどの額を要求されることはまずないし、現金をシャツの内側や靴の中敷の下に入れて分散すれば、大金を失う可能性を小さくすることができる。
一部の国ではクレジットカードのスキミング被害が問題になっているが、申請さえすれば、カード会社が保証してくれる。ただし、裏面に名前を記入していないと保障してくれない場合もあるので、出発前に確認して置く必要があるが。また、クレジットカードの利用金額に予め制限を設けていれば、被害を最小限に止める事ができる。
以上より、全財産もしくは財産の大半を失うような致命的な状態に陥る可能性は(準備さえすれば)限りなく低いと結論づける。そもそも海外旅行に全財産を持って行く人なんてまずいないし。
・犯罪
おそらく海外旅行中に起こるトラブルの中で一番恐れられているのは、現地で犯罪に巻き込まれることだろう。犯罪に巻き込まれ被害者となり、致命的な状態に陥るのだけは絶対に避けたいと思っている人は多いはずだ。
致命的な状態は何かと考えた場合、一つ目に挙げられるのは「死亡する」ことだろう。死んだらもう何もできない。日本は世界的に見ても殺人発生率が低い国なので、海外に行くということは確実に殺される率を高める行動である。
殺されないためにできることは、「事前に危なそうな場所を調べ、近づかないようにする」くらいしかない。強盗や暴漢に遭遇した時に戦うことを選択する人もいるだろうが、返り討ちにあうことになり死ぬ可能性が増すだけになりそうなので、お勧めしない。
危険を避けるために行う情報収集は大きく2つに分けることができる。「日本で日本語で行う」と「現地で英語または現地語で行う」である。前者に関しては外務省のwebサイトである渡航情報や、旅行業社・個人のブログなどから情報を集めることができる。しかし後者の場合、英語や現地語を話せないと現地の人たちから情報を聞いて回ることができない。状況は日々変わるものである。昨日まで平和に暮らせていた地域で突然テロが起こることだってある。このように考えると、単純な意思疎通以上の英語を話せないと犯罪に関する「致命的な状態」になる可能性は高くなってしまう。
二つ目は「重大な後遺症を伴うほどの怪我を負う」ことだ。ただしこれを避ける方法は先述したものと変わらないので、割愛する。
犯罪に絶対に巻き込まれずに海外旅行をする方法は、ない。あるとすれば他国と比べて治安が良い日本から出ないことだが、これは今回の考察の趣旨に反することなので選択肢とはならない。
以上より、英語を話せないと犯罪に関する致命的な状態に陥る可能性はいくらか高くなる。しかし、そもそも今回想定している国は(中南米やアフリカに比べればの話だが)比較的治安が良いので、日本での事前の情報収集をしっかりしておけばその可能性を低くすることができる。
A・B2つのパートの結論をまとめると、「英語は話せないと自称していても、一人で海外旅行をするのに最低限必要なレベルの英語は使うことができるし、事前の準備をしっかりしさえすれば旅先で致命的な状態や状況に陥る可能性を小さくすることができる。」となる。ただし、確実ではない。
これを踏まえて、冒頭の質問にはこれからこんなふうに答えてこうと思う。
「多分大丈夫だよ」
「まあ」が取れたぶん、確度少しだけ上がった。