From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

1週間のフィリピン英語留学は、果たして効果があるのか?

「フィリピンでの短期英語留学が人気です!」というニュースが出てきてからすでに5年ほど経ったであろうか。今も多くの日本人や韓国人がフィリピンに押し寄せている。僕もそれに倣ってゴールデンウィークに1週間だけ英語を勉強してきた。勉強することにはもちろん意味はあると思うが、高い授業料や渡航費を支払い、貴重な1週間の休みを利用して留学することにどれほどの効果があるのか分からない人は多いと思う。この留学の1年後に同じくフィリピンで2ヶ月半、さらに1年後にアイルランドで半年英語を英語を勉強してきたので、そのあたりも踏まえて、学習の効果を考察してみたい。

 

ちなみにフィリピン留学前の僕の英語力は以下のレベルである。

 ・TOEICスコア→800

   ・英会話→一人で海外旅行するには困らない程度には話せる。深い会話はムリ。

 

 

僕がフィリピンで留学していたのは以下の2つの学校。

 ・CNE1(1週間)

   

フィリピン留学なら、やっぱり CNE1 !! | フィリピン留学業界で圧倒的リピーター率No.1

   ・Face to Face(2ヶ月半)

     

f2fenglish.jp

どちらも特色を持ったいい学校なので、オススメ。

 

①費用

 1週間の語学留学にかかる費用は概算で以下の通り。

 ・授業料(宿泊費と学校内の食費含む)

  →約6~12万円

  ※授業料は授業コマ数と部屋のランク(一人部屋、複数人部屋など)によって大きく異なる。

 ・入学金、教科書代など入学に関わる諸費用

  →約1~2万円

 ・雑費(現地移動費、学校外での食事代、お土産代など)

  →約1~2万円

 ・渡航

  →約4~6万円

  

  合計

  →12~22万円

 

②副次的なメリット

 語学留学の目的はあくまでも「語学力の向上」と捉え、それ以外の副次的なメリットに関してはその効果の大小について考察しない。なお、副次的なメリットには以下の様なものがある。

 ・英語学習のモチベーションが上がる。

 ・普段の仕事から解放されるので、リフレッシュできる。

 ・外国文化に触れることができるので、視野が広がる。

 ・普段の生活では知り合うことができない人に出会うことができ、ネットワークが広がる。

 

 

③どの分野の英語力を伸ばせるか

 語学力の伸びは、その人の留学開始時の語学力によって大きく異なる。ここでは以下の3つのレベルに分けて考える。ちなみに分ける基準としてTOEIC(Reading&Writing)を選んだのは、日本の会社員向けで最も多く利用されている指標だからである。多くの英語学習者が一度は受けたことがあるだろう。スピーキングとライティングが入っていないのでこれが適切な指標になるとは思えないのだが・・・

 

各レベルとTOEICスコア

 レベル1 ~450点

 レベル2  455~725点

   レベル3  730点~

 

検討項目は以下の6つ

 ・ボキャブラリー

 ・グラマー

 ・リーディング

 ・リスニング

 ・スピーキング

 ・ライティング

 

 検討の観点は「日本で個人学習した場合と比べて効果的に学べるか」とする。☆1~3個で評価する。

   ☆・・・・日本で勉強した方が効果的

   ☆☆・・・・日本でもフィリピンでも変わらない

  ☆☆☆・・・フィリピンで勉強した方が効果的

 

☆の平均数が2より大きければ、「フィリピンで学ぶ方が日本よりも効果的」と言える。

 

 なお、各項目の評価は私自身の感想と他の生徒の1週間目終了時の感想に基づいた、私の独断と偏見である。

 

 

A.ボキャブラリー

・レベル1 ☆

 かなり効率が悪い。単語帳を1冊買って勉強する方が何倍もパフォーマンスがいい。

・レベル2    ☆

 レベル1の人よりは効果的だが、単語帳の方が効率がいい。

・レベル3    ☆☆

   このレベルであれば、英英辞典もある程度は読めるので、英語で英単語の意味を教えてもらったときにその意味を無理なく理解できる。

 

B.グラマー

・レベル1 ☆

 極めて効率が悪い。英語の文法用語を知らずして、英語で英文法は勉強できない。このレベルの人がAdjective(形容詞)、Verb(動詞)、Present Perfect(現在完了)、Article(冠詞)という英単語を知っているとは思えない。

・レベル2 ☆

 かなり効率が悪い。内容は同上。

・レベル3   ☆☆

 「文法のわからない箇所を英語で質問できる」ならば、ある程度学ぶところはあると思う。正直なところ、TOEICの文法問題で8割以上取れるような人でないと、「英語で英文法を学ぶ」意味はない様に思える。海外大学院留学を目指している様なレベルでなければ、日本で日本語の文法書を使って勉強するのが一番効率的だ。

 

C.リーディング

・レベル1  ☆

    フィリピンで使う教科書には基本的に日本語訳はついていないので、理解が進まないまま文章を読むしかない。極めて効率が悪い。

 レベル2  ☆

 英語のリーディング力を「短時間で文章を飛ばし読みせずに読み切り、その意味を理解する」とした場合、それを上げる方法は読む量を増やす以外にない様に思う。日本での個人学習で十分。

 レベル3 ☆

 同上。

 

 

D.リスニング

・レベル1  ☆☆☆

 フィリピン人講師は皆、生徒に伝わる様に分かりやすい発音で話してくれる。何より、「英語を聞いても何言っているか分からないから、もう勉強したくない!」という状況に陥らないのが素晴らしい。

・レベル2  ☆☆☆

 同上。講師は生徒のレベルに合わせて話すスピードや単語を変えてくれるので、いい勉強になる。  

  ・レベル3  ☆☆

 TOEICのリスニングパートで350点以上取れる人であれば、講師の英語はだいたい聞き取れると思う。450点以上あればほぼ確実に聞き取れるが、逆に簡単すぎてあまり勉強にならない。また、フィリピン人講師の英語発音は、ネイティブが話すアメリカ・イギリス英語とは異なるので、ネイティブと会話するには別の勉強が必要である。

 

E.スピーキング

・レベル1   ☆

 そもその「能動的に口から出せる単語」の量が少ないので、文章を作れず、単語を言うだけで精一杯である。留学前に「瞬間英作文」などで鍛えた方がいい。

・レベル2   ☆☆☆

 レベル1よりは文章を作れるが、長い会話はできない。しかし日本では英会話の機会は中々ないので、いいトレーニングである。

 ・レベル3  ☆☆☆

 同上。また講師からの指摘の意味もある程度の正確性を持って聞くことができるので、効果的にスピーキング力を伸ばすことができる。

 

F.ライティング

・レベル1  ☆☆☆

 ライティングの場合、時間をかけて文章を考えることができるので、「講師に指摘してもらうのに十分な文章」を作ることができる。とても有意義。

・レベル2  ☆☆☆

 同上。

 ・レベル3  ☆☆☆

 ある程度のボキャブラリーと文法知識は持っているので、ライティングは苦ではない。基礎的な指導だけではなく、色々な表現を教えてもらうことができる。

 

【結果】

 ・レベル1→1.67

 ・レベル2→2.00

 ・レベル3→2.17

 

以上より、レベル3の人のみフィリピン留学は効果的と言える。これはあくまでも6項目の価値を等しく評価した場合なので、「スピーキングやライティングを伸ばしたい」という場合には他のレベルの人にも効果的と言える。

 

④何時間勉強できるか。

 ③では英語の各項目の学習効果について考えた。多くの語学学校では授業内容を自由に選べるので、1週間という短期間でどれだけ勉強し、自分の伸ばしたい分野を集中的に学習することができるか考えていく。

 

 休暇は9連休(土日月火水木金土日)で取ることができるが、ほとんどの語学学校が月~金しか開講していない(追加料金を払えば土曜日に授業を受けられる学校もある)ので、勉強できるのはこの5日間である。

 

 1日の授業時間は学校によって異なるが、50分を1コマとして、4~8コマの中から選択できる場合が多い。ここでは6コマコースを選択するものとし、1日あたりの授業での勉強時間は50分*6コマ=300分となる。

 

 授業の前には予習、授業後は復習およびそれ以外の個人学習を行うと仮定し、何時間行えるか考える。僕の経験からすると、留学1週目の授業はものすごく疲れるのである。フィリピンの英語授業はスピーキングベースで行われる。そうなると普段使っていないリスニングとスピーキングに対する感覚をフルに使いながら授業を行わなければならないので、疲労感がハンパ無いのである。文法やリーディング、映画を見てのリスニングを合計6時間やることと比べると、何倍も疲れるのだ。これは他の生徒たちも皆同様の反応を示していた。出発前は多くの人が「この1週間で勉強しまくって成長するぞ!」と意気込むが、疲れすぎて勉強する気が起きなくなってしまうのだ。しかもようやく慣れた頃には日本に帰らなければならない。以上より、予習・復習・その他の個人学習に充てる時間は1日あたり3時間程度とする。

 

 最後に授業と個人学習以外で英語を使用する時間である。休み時間などに先生と英語で話したり、生徒同士で英語で話すこと(EOP)を奨励する学校もある。ちなみにFace to Faceという学校では先生と同じ宿舎で寝泊まりするので、宿舎に帰ってからも英語を話すこともできる。とは言っても、英語を喋り慣れていない人が先生からのアシストなしに英会話を長時間成立させるのは中々難しいので、この時間は30分とする。

 

 以上より、1日あたりの英語学習時間は9時間半、これが5日間続くので、総学習時間は47時間半である。

 

 果たしてこの「47時間半」という時間は、英語力の伸びを感じるのに十分な時間なのだろうか?例えば、平日のみ毎日2時間勉強する生活を1ヶ月続けたとする。1日2時間の学習は忙しい社会人でも無理な数字ではないし、平日忙しければ休日に回してもいいバッファもある。1ヶ月の平日を22日とした場合、総学習時間は44時間である。日本での1ヶ月とフィリピンでの1週間はほぼ同じなのだ。1ヶ月の勉強量を1週間に縮めることができると考えれば、超短期のフィリピン留学は効果的な様に思える。

 

 しかしここで一つ問題が出てくる。短時間で覚えたものはすぐに忘れやすいのだ。エビングハウス忘却曲線によれば、人は初日に覚えたものの67%を1日後に忘れ、6日後には75%も忘れてしまうのだ。もちろん帰国後も学習を継続すれば問題はないのだが、どれほど続けることができるだろうか。開放的で温暖なフィリピンから、人も時間も忙しく流れていく日本での生活に戻ったときに、学習を続けるという意思を持ち続けることは果たしてできるのだろうか。そのことを考慮に入れると、超短期間で学習するということにあまりメリットを感じることはできない。

 

⑤結論

 以上①~④より、「高いお金を出して1週間だけフィリピン英語留学するのは、英語学習の観点からすると、割りに合わない」と言う結論になる。また、③に挙げた6項目のうち日本で勉強する機会が最も少ないのはスピーキングだが、これもオンライン英会話を使えば安価で代替できる。例えばDMM英会話は約1万円で1日あたり50分、1ヶ月で25時間分授業を受けることができる。1週間のフィリピン語学留学がコストパフォーマンスに優れているとは言えない。とは言っても、②で挙げた副次的なメリットの価値は単純に計算できない。学習意欲が年々衰えるなかで、強制的に学べる空間で過ごせるというのは人生の向きを変える様な起点となり得ることだ。気になっているのならまずやってみればいいと思う。長い目で見れば十数万円の投資なんて微々たるものだから。