From a Corner of Somewhere

ユーラシアを北から南まで旅した記録 日本語と英語で書いてます。 Traveling From the North to the South of Eurasia

No.1 真っ直ぐな線路と曲がりくねった道

長い休みが取れたらどこへ行こう。一週間あれば、カナリア諸島に生える竜血樹を見に行ける。二週間あれば、インド北部にあるチベット文化圏を周れる。三週間あれば、陸路と航路だけで日本からヨーロッパ大陸最北端まで行ける。四週間あれば…

 

 

 右手に持つスマートフォンを操作すれば情報は無限に出てくる。そしてそこから幾通りもの旅行プランを作り出せる。しかしこんなことをいくら考えてても、実現には程遠い。日本の多くのサラリーマンにとって、連続休暇はせいぜい一週間が限界だ。その限られた日数の中にやってみたいこと、行ってみたい場所を切り貼りして押し込んでいる。できるだけ旅行時間を長くするため、退勤後にスーツ姿で空港に向かい、深夜便で海外へ。到着してからは観光プランを消化するため、忙しく動き回る。ギリギリまで現地に滞在して、月曜日にはいつも通りの無表情で通勤電車に押し込まれていく。そんな風にしてみんな余暇を楽しんでいるのだ。真っ直ぐ伸びる線路がひたすら続く中央線で、これからどのように生きていこうか、よく考えている。大きなカーブは無くても左手で吊り革を掴んでいないと、すぐによろけてしまう。いつかは長期の旅に出たい、という思いはこの数年間ずっと頭の隅にあったが、会社を辞める思い切りには繋がらなかった。

 

 いつも通り仕事をこなしていた冬のある日、自分が希望していたプロジェクトに参加できないことが分かった。数ヶ月後には30歳になる。このまま残っていても希望が叶えられるか分からないし、転職するにもいい年齢だ。昔ある女性歌手がラジオで「ピンチはチャンス」と言っていたが、今この状況こそがこの言葉を使う時なのではないか。もし本当に辞めるのなら、丸々一年を使って長い旅に出てもいい。

 

 何処に行こうか。ノンフィクション作家・沢木耕太郎の著作はよく読むが、彼の一番世に知られている作品として、この数十年間幾人もの若者を放浪の旅へ誘った『深夜特急』がある。その中で、青年沢木はユーラシア大陸をアジア側からヨーロッパ側へ向かった理由として、「多くの人がシベリア鉄道でヨーロッパまで行き、旅の資金を稼ぎ、インドを目指して旅をしている。その逆をしたら面白いんじゃないか。」ということを語っている。その流れは現在でも続いていて、多くの旅人が極東にある日本から、ロンドンやユーラシア大陸最西端のロカ岬を目指している。人気があるのは魅力があることの裏付けだが、それは同時に魅力が無くなってしまうことの証拠だ。だったらその流行りには乗らずに、昔の旅人みたいにヨーロッパからアジアに進んで行く方が面白いんじゃないか。

 

 どうせ行くならずっと遠くまで行ってみたい。最近は世界一周を掲げる長期旅行者が多く、彼らは日本から西に向かって進んで一周するのかそれとも東なのか、ブログなどでよく語っている。まずは比較的旅のしやすい東アジアや東南アジアで経験を積むのか、それとも一気に太平洋を越えて英語が使える北米を周遊するのか、そんな感じだ。みんな東西方向にしか興味がないのなら、北から南に行ってみるのはどうか。世界の果てである北極から南極へ。写真家の石川直樹が若い時に参加した「P2P(Pole to Pole) Project」のように北極点から南極点へ行くのは厳しいが、北極の何処かから南極の何処かへなら行けるはずだ。

 

 北極大陸なんてものは存在しないので、まずは北極圏の行けるところまで行く。その後ヨーロッパを周り中東、中央アジア、中国へ。そしてヒマラヤ山脈を眺めながらチベットを通ってインド亜大陸最南端へ。その後は中米に飛んで南米を周遊し南極大陸まで。チベットとネパールの間の道は2015年の地震の影響で今も通行止めだが、そのうち開くはずだ。ダメだったらミャンマーからインドに入ってもいい。このルートは近年ずっと閉ざされていたが、最近になってようやく開いたという情報もある。とは言っても国境に関する情報なんて水物で、実際に行ってからでないと判断できないから、その時にどうするか決めればいい。全部陸路で行けば、大きく蛇行した全く素直でないルートにある。代わり映えのしない景色には飽き飽きしていたから丁度いい。

 

 この計画が実現可能かどうかはやってみないと分からない。上手くいかなかったとしても、それはそれはでいい。誰に何も求められていないし、旅なんてそんなものだから。そんな訳で、僕はつり革から手を離して会社を辞めたのである。

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